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『明儒学案』修訂本

『明儒学案』の修訂本が中華書局から出版された。
校点者は同じ沈氏。

以下,『明儒学案』を使う人は専門家しかいないので,常識的な説明はしない。

底本は旧本と同じく馮本(鄭本の重印本)だが,旧本よりも多数の版本と校勘している。また修訂本は旧本の批評,即ち『釈誤』の意見を全面的にくみ入れており,併せて『全集』所収の『学案』も参照している。中国の研究では,先行研究を顧みない場合が多いが,今回は旧本の著者による訂正のみならず,『釈誤』『全集』を参照している点で,研究者の良心を感じさせる。

装幀や紙質も旧本よりも良くなっている。『学案』にはもはや従来ほどの権威はないが,基本著書であることにかわりなく,その意味からすれば,紙質がよくなったのは喜ばしい。また字の写りもよく,旧本に比べて字数のずれがいくつか見られる。データからの出力か活字を組んでのものか,私には分らないが,少なくとも部分的には,旧本を全面的に直した部分があるようである。

ただし,これは著者自身が指摘するように,修訂本に於いても,明朝の文集等の第一資料との比較は余りなされていない。これは校点者の沈氏がそれら第一資料を見る便宜がなかったことが大きい原因らしい。遺憾なことではあるが,仕方のないことである。その程度は研究者が自分で努力しろということであろう。

なお旧本に対する最も強い批判の一つ,所謂黄宗羲の原序,即ち賈氏重修本の黄氏文集より取りたる序文は,削除されてある。この点は従来の批評を受けた結果であろう。これは見識の問題であるから,利用者からどういっても無駄であるが,参考程度に「原序」を載せてもよかったような気はする。

また賈本にあって鄭本にない伝記類は,鄭本を利用した全集本に采録されていない。しかし旧本と修訂本にはともに収められている。これは校点者の序文に記されているが,該当場所に直接の注記はない。この点はすこし不親切な気がした。

以上,修訂本は態度としては良心的なものである。まして『全集』所収本は,『全集』を購入する必要があるのだから,『明儒学案』の単行書として修訂本が上梓されたことは,明代に興味のない私のような人間でも,喜ばしい限りである。

とはいえ,修訂本といえども,第一資料と厳密に比較した場合,校点・句読の問題点を指摘することは可能だろう。そもそも第一資料と相当程度乖離した引用文も存在する。また第一資料から判断すれば,厳密には発言者の名前を間違えている場合も存在する。

例えば,諸儒学案に収められた羅倫は,修訂本では3頁にも満たない分量である。しかし要語として取られた羅倫の言葉には,羅倫の文集から判断する限り,彼の発言ではないものが含まれている。(最終条)黄宗羲は,羅倫の文章の中に引かれた他人の言葉を,羅倫の言葉と誤認したのであろう。

また羅倫の小伝は,いくつかの先行伝記を利用しているが,明らかに『重校一峯先生集』十卷(鄒元標、呉期炤,萬暦十八年刊)を利用した形跡がある。しかしこの呉氏の重校本には諸種の難点が含まれており,随ってこれを利用した『明儒学案』にも問題が生まれるわけである。

これらはもちろん校点の範囲を逸脱するだろう。しかし『明儒学案』のような資料集的文章を整理する場合には,可能な限り指摘があってもよいはずである。従来の校点の誤りが軽減された修訂本を利用する場合であっても,可能な限り原典を探して事実関係を確認する必要がある。これは当り前のことであるが,便利な本であるが故に,そして黄宗羲しか目にし得なかった資料も多かった故,ついつい疎かになる場合がある。

本書がより周到に整理され,便利になればなるほど,この傾向は否めない。長い年月をかけて校正に従事された沈氏の学業にはどれほど敬意を表しても足りないくらいであるが,その業績がいかに優れたものであっても,やはり『明儒学案』は利用者を択ぶ本であると言わなければならない。

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