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翻訳を手に余計なことを考える

日本後紀(上)全現代語訳 (講談社学術文庫)日本後紀(上)全現代語訳 (講談社学術文庫)
(2006/10/11)
森田 悌

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去年の秋から冬にかけて出版されたので,いまさらどうこう言うつもりはない。

六国史の三番目のもので,桓武天皇の治世後半から平城・佐賀・淳和の三天皇の時代をカバーする。原本は40巻で六国史の中では比較的大部であるが,既に多くが散佚しており,今では10巻が残るに過ぎない。そのため本書の輯佚作業が代々なされてきた。輯佚というのは,簡単に言えば,既に失われた本の引用文を集める作業である。本書も歴代の成果を吸収しつつ,新たに輯佚を行い,残存の10巻と合わせて現代語訳をしたものだ。

従来の『日本後紀』の逸文は,残存部分と切り離されたものがおおく,研究的ならいざ知らず,私のような素人が目を通すには不便なところがあった。しかし本書は残存の10巻と輯佚部分とを時代順に配列しており,通読には便利である。構成は現代語訳+原文で注釈はない。これについては,原文は必要なのかとか,原文より注釈の方がよかったのではないかとか,いろいろ言えるが,これらは見識の問題なので特に言うことはない。それよりも本書を読んでいて,本文と全然関係のないところに感銘を受けた。それは六国史の翻訳ということである。

考えてみれば,日本史の本があれほど出ていて,研究するところがないと言われるほど研究されておりながら,六国史の全訳もなかったことに改めて感心させられた。もちろん,六国史の翻訳を読めば,この時代が分るわけではない。逆に,個々の文章を正確に読む為にも,多くの研究が必要だと言える。それはもっともなことだ。しかし,それであっても,まだ六国史の全てに現代語訳がないことに,何かしら学問の存在価値を感じざるを得ない。

六国史の翻訳があっても,一般の人は読んだりしないだろう。読んでも事細かに分析はすまい。分析するにも時間がないし,最後には原文と口語訳との壁に悩まされるのがオチだろう。しかし現代人に読める文章がないというのに,我々一般人はなぜこの時代を知っているのだろうか?

学者の概説書や,それを更らに通俗化したような小説,もっと極端には漫画やアニメなんてもので理解しているのかも知れないが,それは結局,それらの本や漫画に語られたことを知っているに過ぎない。

謂ゆる概説書にはその時代の歴史が語られている。しかしそれを語っているのは学者だ。学者の文章が論理的であればあるほど,読者はその解説に感銘を受け,正しさを感じるだろう。しかしそれは学者の文章が論理的だっただけ,あるいは学者の頭脳が論理的であっただけで,なにも歴史の解説が正しいことを意味しない。

我々の知り得ぬ知識を前提にした説明は,我々にはその正当性を判断する根拠を持たない。まず考えられないことだが,すべての学者が全くの出鱈目を書いたら,我々はその出鱈目を正しいものだと思うだろう。どんなに出鱈目でも,歴史を論理的に説明することは可能なのだから。

六国史の翻訳があっても,一般人が読むと思えないが,しかし翻訳されてあれば検証も可能だ。捌ききれない分量の残る近世ならいざしらず,六国史の分量であれば,その重要性を鑑みて,とうの昔に現代語訳が揃っていてもよさそうなものだ。それがまだなかったということに,本書を手にとって,妙に感じいった。

ともあれ『日本後紀』が私のような素人にも読めるというのは,ありがたい話しである。もっとも私には『後紀』の原文などよめないから,現代語訳が正しいかどうかなんて分かりはしないんだが。


ちなみに,こんなことをいうと,それこそ史料も信用できないということになる。それはそうだ。私もそう思う。人間から離れた客観世界を写す歴史書なんてものは存在しない。だから史料を前提にして客観界の歴史を組み立てるなんぞもあり得ない。ではそんないい加減な史料を一生懸命研究して,何が得られるというのだろう。歴史とは何か。いや,そもそも歴史はなぜ研究されなければならないのか。私は歴史家ではないので,こんな問いに答える義務はない。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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