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続資治通鑑長編紀事本末

ここ数ヶ月,『宋史紀事本末』につきあっているので,ついでに(?)『続資治通鑑長編紀事本末』のことでも書いておこう。みんな知っていることなので,本の名前を知っている人は読めば時間の無駄になるので注意が必要なり。

『続資治通鑑長編紀事本末』(以下,長編紀事本末)は,南宋の理宗前後に生きた楊仲良(字は明叔。蜀の眉州の人)の手になる書物で,その名の通り,李の『続資治通鑑長編』を紀事本末体に編成しなおしたもの。李と同じ蜀出身ということで,李の薫陶を受けたのではないかという大胆な推論を立てる人もいるが,これは固より不明と言わざるを得ない。

紀事本末体というのは,袁枢の『通鑑紀事本末』に始まる中国の歴史書編纂方法の一つで,『長編紀事本末』の場合なら,編年体で書かれた『長編』の中から,重要な事件を択んできて,その本末(発端と結末)を記すことを指す。ただ本末を記すといっても,編輯者自身が自分の文章をつづるのではなく,原則として『長編』に記された記事を抜粋することで,事件の本末を明らかにする。ある意味,自分で文章をつづってしまうよりも学力のいる作業ではある。

さて,『長編紀事本末』は『長編』の紀事本末だけあって,あつかう範囲は北宋に限られる。その点,よりポピュラーでハンディーな『宋史紀事本末』(あるいは『続資治通鑑紀事本末』)が南北両宋を押さえているのに比べると,対象範囲は狭いと言わざるを得ない。ただ価値的には『長編紀事本末』の方が上に来るだろう。

そもそも『宋史紀事本末』の材料は『宋史』であり,まず『長編』に劣る。また分量的にも『宋史紀事本末』は『長編紀事本末』よりも少なく,項目の立て方も『宋史紀事本末』は大まかであるのに対し,『長編紀事本末』は詳密を極めている。だから一般的には『長編紀事本末』に軍配があがるだろう。とはいえ『宋史紀事本末』が『長編紀事本末』に絶対に劣るというわけではない。簡便に読みたい場合は,『宋史紀事本末』の方がかえって便利である。要するに,読者がなにを求めるかで,どちらを選ぶべきか別れるのであって,絶対的な甲乙があるわけではない。

なにはともあれ北宋研究最大の史料である『長編』を下敷きにしているわけだから,『長編紀事本末』は頼りになる。しかし一つだけ欠点がある。それは一部に欠落があることである。

『長編紀事本末』は南宋に生まれ,ある程度の流通を見たあと,明朝では消滅し,清朝に再び日の目を見ることになるが,そのどれもが同じ部分を失っている。具体的に言うと,第5・6・7・8の一部分が欠落しており,巻114~119が完全に欠落している。この内,巻5~8は太祖と太宗の一部で,『長編』がそれなりの残っているので被害は少ない。しかし巻114~119(哲宗と徽宗)は現行本『長編』そのものが欠けているので,『長編』からの復元も不可能である。特に徽宗初期(建中初政)のかなりの部分が復元不可能になってしまったのは残念なことである。とはいえ,全体からみれば相当数が現存しており,利用する分には充分役に立つ本であることは間違いない。

その他,本書は宋代の『長編』を見ているわけだから,現行本『長編』(『永楽大典』輯佚書)の欠落や誤植を補うことも出来るなど,専門的な利便性もあるが,これは一般向きではないので語る必要はない。

誤解のないように言っておくと,『長編紀事本末』は『長編』を紀事本末体に仕立て直したものだが,なにも該当事件に関係ある『長編』の文章を根こそぎ集めてきたわけではないし,引用したとしても節録ですます場合の方が多い。だから『長編紀事本末』を読んでも『長編』を読んだことにはならない。『長編』の方が圧倒的に分量も考察も多いで,『長編紀事本末』で興味のある話題が出て来たら,どうしても最後は『長編』を読むことになる。あくまでも『長編紀事本末』は事件の本末を簡便に知るための書物である。

なお『長編紀事本末』は書誌にいろいろ出て来るが,通常見ることの出来るものは,『宛委別蔵』所収の抄本と広雅書局の刻本の二つである。優劣は付けがたいが,刻本は『長編』との出入を双行注で指摘しており参考になる反面,抄本に比べると明らかな誤植がある場合もある。(逆もあるように思うが,詳細に比べたわけではないので明言は避ける)

現在,『長編紀事本末』を手にれるには,四つほど手がある。最も簡単なのは,李之亮氏の校点になる『皇宋通鑑長編紀事本末』(全4冊,黒龍江人民出版社)を手に入れることで,値段も1万前後とお手頃である。(あくまでもこの手の本の相場のはなし。絶対的な値段の高下ではない)ただしこれは縦書き簡体字で,日本人には少し抵抗があるかもしれない。テキストは宛委別蔵本(抄本)。

次に台湾の文海出版から発売されている「宋史資料萃編」第二輯の『続資治通鑑長編紀事本末』がある。同萃編は第一輯と第二輯だけはばら売りされているが,本書は全8冊。web上で取り扱いが確認できる高畑書店では49245円で売っている。まあどこも5万前後だと思うので,特別に高い分けではない。これは広雅書局刻本を影印出版したもの。影印の仕方がうまくなく,原本のページ端が歪んで印刷されている場合があり,ひどい時には最終行の三分の一くらい見えないところがある。

次に『宛委別蔵』を購入する。なぜか『宛委別蔵』を取扱っている琳瑯閣書店では,415800円で売っているらしい。まあ,『宛委別蔵』を購入しても,『長編紀事本末』はその内のごく一部に過ぎないわけだけど,こちらは上の校点本の原本にあたるわけだから,価値的にははるかに上ということになる。ただ値段がね。洒落にならないね。

最後に私は見たことないけど,書虫に『続資治通鑑長編紀事本末』(全8册,北京図書館)というのが出ている。値段も67200円(割引で 53760円)で,文海出版社のと似ているが,よく分らない。北京大学が出しているくらいだから,悪い物ではないと思うが,如何せん原本を見たことがないのでコメントできない。

番外編としては,中国(大陸)のサイトに校点本のデータがごろりと置かれている。違法なのか合法なのか分らないが,二~三巻拝見させて貰ったところ,誤字脱字もあり,もちろん底本とするわけにはいかない。でも校点本に興味のある人で,中味を見てからでないと買うのは恐いという場合は,参考に見てみるといいと思う。ちなみに同じ場所に『続資治通鑑長編』のデータも置かれている。蓋しかつて台湾で公開されていたデータを大陸用になおしたものだろう。

もう一つ,新しく編纂された『続修四庫全書』(戦前の提要だけあるアレとは違うやつ)の中にも『長編紀事本末』が取られているが,見たことがないので底本は分らない。
(*)コメントで教えてもらったので調べてみたが、宛委別藏を底本にしているようです。ただし『続修四庫全書』そのものは未見なので、あくまでも目録情報。(2008/09/06追加)

なぜか知らないが,いまだに『長編紀事本末』より『宋史紀事本末』の方が有名だという解説がなされたりするが(校点本の説明など),どうせ本格的に読むなら,学のない明人がつくった『宋史紀事本末』より,見識ある宋人のまとめた『長編紀事本末』を使いたいところだ。

ちなみに,『長編紀事本末』の内容には一言も触れなかったが,これは触れられないからだと申し上げておく。そもそも北宋の有名事件がほぼ収まっているのだから,強いて説明するとすれば,「北宋の有名事件はほぼ収録されている」という程度のことになってしまう。

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続修四庫全書

はじめまして。
続修四庫全書の長編紀事本末ですが底本は宛委別蔵のようです。そして最近、中国の本の電子化がいちじるしいのですが、日本以上に共有・収集大好きなお国柄のせいか、続修四庫全書も宛委別蔵もネット上をさがせば、書影をそのままとりこんだものがころがっています。
本屋にはきびしい世の中になってきたようです。

コメントありがとうございます

総合目録が近くの図書館にあったので調べてみました。でも、このブログを読んでる人がいたんですね。びっくりしました。
データ公開ですが、利潤を無視した援助が結局は失敗するのと同じように、ルールを無視したデータ公開は、便利なのは今だけで、遺産を食いつぶしたら終わりでしょう。公開はともかく、利潤の生まれるルールが必要でしょうね。
いずれにせよ現在は試行錯誤の時代だから、結果的に正しい選択をしても生き残れるとは限らない。なににしても苦しい時代ですね……というか人生は苦しいものだから、これが普通なんでしょうけど。

No title

専門的な記事で楽しく読ませて頂きましたが、一つだけ気になったことがありました。

『続資治通鑑長編紀事本末』にはたしかに欠落はありますが、復元する道がないわけではありません。

といいますのも、『宋史全文続資治通鑑』の北宋部分は『長編紀事本末』からの引き写しだと言われているからです。

私はやったことがありませんが、この突き合わせを厳密に行い、両書の関係をはっきりさせることができれば、『長編紀事本末』の相当部分を復元することができると思います。

釈迦に説法かもしれませんが、念のために書き置いておきます

Re: No title

コメントありがとうございます。
更新を停止して長いブログにコメントがあると思いませんでした。承認がおくれて申し訳ありません。
といいますか、承認制になっていたことも知りませんでした。

さて、コメントを拝見しまして、私自身考えたことがなかっただけに、新鮮なおもしろさを感じました。私は『長編』の復元を考えることはあっても、その派生作品である『長編紀事本末』の復元は考えたことがありませんでした。

ご指摘のように『宋史全文』をつかえば、『紀事本末』の骨組みを復元することは可能かも知れません。難点とすれば、『宋史全文』は記事が簡略に過ぎるため、労力の割に報われることの少ない作業になるやもしれないということでしょうか。

そういえば『長編拾補』は『宰輔編年録』など幾つかの重要資料を利用していないので、『長編』復元としては未完成ということになるのでしょう。蛇足ながら。
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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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