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『春秋学入門』1-1

サイトの方に改訂版を公開しました。改訂済みの訳文は『春秋学綱要』と改題し、こちらサイト本館)にあります。なおブログ掲載の訳文は、煩瑣を避けるため、補注を削除しております。ご了承ください。
○最終更新日:2009/11/01

第一論文

春秋学の目的


〔目的〕

『春秋』はどのような書物か。曰く、『春秋』は天理を扶持し、人欲を止める書物である〔補1〕。しかし『春秋』は魯史に過ぎず、聖人もそれに手を加えたに過ぎない〔補2〕。それにも関わらず、天理を扶持し人欲を止めるとは何の謂いか〔補3〕。曰く、かの偉大なる上帝は、民草に衷を授けられた。その常性に従って民を安寧に導くことが、君主の勤めである(*1)。堯帝、舜帝、禹王、湯王、文王、武王は、君主として民草の上に立ち、人として踏み行うべき基準を設け、世の秩序を維持し、さらには〔宇宙の本体たる〕太極を常に運行させ、天地生々の理を滞らせなかったが、これは天理を明らかにし、人の心を正したから、できたのである〔補4〕。

しかし周の東遷以来、古代聖王の政治は顧みられず、政教は失われ、風俗は頽廃した。秩序は守られず、上帝の授けられた天理も、その天理に従うことも、曖昧模糊として無きがごとき有様となった。そのため君臣の道といい、上下の分といい、夷夏の別といい、長幼の序といい、義利の別といい、真偽といい、すべて混乱してしまった。諸侯は天子のごとく振る舞い、大夫は諸侯のごとく振る舞いながら、だれもその間違いに気がつかなかった。臣下が君主を弑し (*2)、子供が父親を弑し、強国が弱国を併呑し、身分の低いものが高い身分を奪いながら、だれもその乱れに気がつかなかった。これらの振る舞いは全て聖代の政治に反したものであり、人として間違ったものでありながら、だれもその不正に気がつかなかったのである。

孔子は聖人であったが、天子の位にいなかった〔補5〕。ならばこの世を正しく治める責任は、誰が負うというのか。孔子はこれを諦めるに忍びなかった。このため天理を明らかにし、人の心を正す責任を、己の身に課したのである。聖人の作った六経は、どれも世に教えを垂れたものである。しかし『春秋』には取り分け深い意味が込められた。だから「私は空論によって示すのではなく、事柄のように切実で明白なものによって示そうと思う」(*3)と言ったのである。

魯史の記事は、聖人も『春秋』に書いた。その事は全く魯史と同じである〔補6〕。しかしそこに込められた意味は異なっている。魯史の記述には、君臣のあり方〔が不分明のところがある。しかし我が聖人は、君臣の義が正しくなるよう書き直した。〕〔校1〕魯史の記述には、上下の分が混乱しているところがある。しかし我が聖人は、上下の分が正しくなるよう書き直した。夷夏の区別が明らかでなければ、我が聖人はこれを明らかにした。長幼の序が正しくなければ、我が聖人はこれを正した。義理の区分が不分明であれば、我が聖人はこれを区分した。真偽に混乱があれば、我が聖人はこれを明らかにした。これを要するに、天理をその芽生えに於いて扶持し、人欲をその出現に於いて止めたのである。これこそ人の心を正す方法であった。だから「禹王が洪水を治めたので、天下は平安になった。周公が夷狄を排斥し、猛獣を駆逐したので、人々は心休まった。孔子が『春秋』を作ったので、乱臣賊子は懼れをなした」(*4)と言われるのである。

しかし孔子の『春秋』は、ただの文字上のことに過ぎない。それが洪水を治め、戎狄を駆逐した功績に擬せられるのは、人の心を正した功績が、龍蛇を放ち虎豹を駆逐した功績よりも、取り分け大きかったからである。だから「『春秋』は天子の事だ」と言われるのである〔補7〕。なぜならば、人の性が心に現れるとき、惻隠に始まり是非に終わるが、惻隠の情は人の心に根ざし、是非の情は天下に通じるからである〔補8〕。

〔訳者注〕
(*1)『尚書』湯誥の言葉を参用したもの。解釈はおおむね蔡沈の『書集伝』に拠った。「衷」は「中」に同じ。呂大圭の属する朱子学では、この「中」を天理と解釈する。次に見える「常性」も同じく天理の意。詳細は〔補4〕を参照。
(*2)君主を殺すこと、および子が父を殺すことを、「弑(しい)」と言う。意味は「殺す」に同じ。人間の犯してはならぬ大罪の一つ。
(*3)『史記』太史公自序に見える孔子の言葉。原文は「我欲載之空言、不如見之於行事之深切著明也」で、孔子の春秋制作の由来を説いたものとされる。
(*4)『孟子』滕文公下篇の言葉。以下の「『春秋』は天子の事」も同じ。

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