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『秦山集』を読む(8)

(追記:2010/02/06)
南学・秦山・崎門関係の記事はサイトの方に改訂整理しました。以下は拍手をいただいた記念に残しておきますが、間違いは訂正していません。
(以上、追記終わり)

「秦山集を読む」シリーズも今回が最後。いつものことながら,張り切るつもりはないが........感慨もない。私は犬に追い回されても,面倒くさくなって途中で逃げるのを止めた人間だからね(もちろん犬にかまれたよ。本当に犬が襲ってたら,私は死んでいたと思う)。

『秦山集』の第2冊目は巻8~巻12の書簡と,巻13・14の雑著を収める。話しの都合上,まず雑著から紹介を始める。

『秦山集』は第3冊目の『甲乙録』以後,雑著と名付けられる膨大な講学語録が収められているが,この巻13と14の雑著は単文の集まりである。内容の説明には目次を挙げた方が便利だろう。

第13巻
洪範全書末巻説(庚申)
考定継体天皇本紀錯乱(乙丑)
朝倉神名辨
蓍卦考誤左数右策左右皆策説(庚午)
蓍卦考誤蓍図辨(辛未)
伊川涪州説
禫説
読李氏蔵書景泰諸君子伝
時点説(乙亥)
立子以長以徳辨
日本称倭辨(壬午)
谷氏大神姓説
底筒祭説(丁亥)

第14巻
譜法三篇
土佐国式社考
幼科新義三篇(丁亥。代筆)
私講牓諭(癸酉)
策問(全四篇。庚午。辛未。甲戌)



巻14の『幼科新義』は馬詰敬親の著作を漢文に書き直したもので,秦山自身の文章ではない。

全体的に雑駁な印象を受けるが,朝倉神名辨や土佐国式社考を代表とする神道理論・神社研究,谷氏大神姓説や譜法三篇(谷氏族譜に活かされたようである)の祖先研究,洪範全書末巻説や伊川涪州説の儒学的教養を発揮した著作が中心を占める。言うまでもなく,全篇漢文。

雑著の方はこれくらいにして,第2冊目前半の書簡の感想を書いておこう。

秦山の書簡は,後々に稲毛実が『秦山先生手簡』にまとめ(『土佐國群書類従』雑部所収),さらに増補を加えて同名の書物で青楓会から1939年に出版された。どれもこれも閲覧に不便な書物だが,研究する場合は『秦山集』のみならず『秦山手簡』も見なければならないようである。もちろん趣味で読む場合はなおのこと『秦山手簡』も見たいところである。

私は『秦山手簡』の原本未見につき正確なことは言えないが,青楓会編の『手簡』によると,原本は草書で書かれているらしい。そうだとすれば私には読めないから,やはり増補版の『手簡』を使わざるを得ないようである。

『秦山集』の書簡は,上長兄に始まり,闇斎,絅斎,春海などの先生方への書簡(巻8~巻9),富永成是らの畏友や上司に対する書簡(巻10~巻12)に分けられる。ちょっと気になったのは,三宅尚斎に与えた書簡が収録されていないことである。秦山と三宅尚斎との論争は主として神道をめぐるもので,秦山・尚斎ともにその神道理論を知るに重要な書簡とされているが,なぜか『秦山集』に未収録となっている。秦山が尚斎に与えた最後の書簡は秦山死亡の直前のものだから,論争未熟につき敢えて文集には収録しなかったのだろうか。それとも現代の人間が思うほど,この論争に両者は意味を感じていなかったのか。ただ尚斎の「そんなに神道が重要なら,儒学はすっぱり止めたらどうですか?」という批判(問いかけ)には笑ったけど,それが『秦山集』で読めないのは残念な話しだ。

『秦山集』には闇斎,絅斎,春海宛の書簡が収録されており,各々重要な内容を含んでいるが,敢えてここで取り上げるのは,野中継善に与えた書簡である。野中継善は野中兼山の息子で,兼山失脚後,40年にわたって幽閉され,そのまま死んだ人間である。後に秦山も12年にわたり幽閉され,そのまま死ぬのであるから,ある意味,この書簡は秦山の思想を考える重要な試金石たり得る。

書簡は長文だが,まず朱子の書物の永遠性を論じ,次いで野中兼山と闇斎(兼山の弟弟子)が朱子学を講じたことの不朽の功績を挙げ,次いで秦山もその遺沢を受け,是非とも兼山の子孫と講学したいこと,しかるに未だ幽閉の身分で,面と向かって話しもできない無念を告白する。次に人間として踏み行うべき道を論じ,その具体例として宋代士大夫の生き様を引き,最後に継善の幽閉中にあってなお温雅沖澹の詩を読み,その人間的高尚を称賛した上で,絅斎の『靖献遺言』を贈り,この道を実践すれば幽閉のまま死してなお怨みなく,「幸いに天日を見ること有るも」有益であることを述べ,文を結んでいる。

書簡の中心部分は下の言葉に尽きている。

蓋し之を聞く,朱子の道 大にして且つ博し。然して其の実 父子の親,君臣の義,二の者に過ぎざるのみ。此の二者は天の我に与ふる所以にして,我の得て以て性と為る所,人心の已む容からざるに根ざして,天地の間に逃るる所無し。是を以て子の親に事る,臣の君に事る,一に其の心を尽くし,死有りて弐無し。其れ或いは事変 斉しからず,放逐の悲しみ,竄殛の惨きに遭うこと有りと雖も,我の已む容からざる者,自ずから息むこと能はざれば,則ち慝を引き身を致し,敢えて一毫怨懟の私有ること莫し。或いは不幸にして君父亡没するや,此の心を施す所無きが若しと雖も,然れども此の身は即ち親の遺体,君の違黎なれば,則ち我の已む容からざる者も亦 依然として易うべからざるなり。故に葆嗇 節を守り,敢えて一毫解弛の念有ること莫し。此れ君父に徳とすること有るに非ず。蓋し必ず此の如くにして,然る後 本心に慊りて,天地の間に愧ること無きのみ。瞽叟は惨父なり。毎に舜を殺さんと欲して舜の知 其の惨を知らず,曰く惟だ父母に順いて,以て憂いを解く可しと。紂は忍君なり。文王を羑里に拘を,文王の聖,其の忍を知らず,曰く臣が罪 誅に当たる,天王は聖明と。父没す。曾子 一息尚存するの間に薄きを履み深きに臨めり。君亡ぶ。伯夷 仁を求め天下 周を宗とするの秋に仁を得たり。是れ舜の性なる所以,文王の至徳なる所以,曾子伯夷の魯を以て之を得 且つ聖の清と為る所以にして,之を要するに本分の外に於いて,毫末を加ふること有るに非ざるなり。若其し湯武の慚じて未だ尽くさざる所以,其も亦 此を謂うなるか。朱子 六経四子を羽翼し,小学・近思を蒐輯せる,其の用心精力 蓋し此に在りて,通鑑綱目は其の事実を挙げ,楚辞集註は其の実情を述ぶる者なり。世の放臣屏子 往往にして此に聞くこと有る能わず,其の抑鬱無聊の感に迫られ,勝えずして天年を夭する者有り,詩に遁れ,酒に遁れ,老釈に遁れ,琴棊書画の玩に遁れる者有り。此の如くなる者は皆 惑いなり。亦 罪有り。嗚呼,天の与うる所,夫れ奚ぞ避けんや。



少し前なら,驚くべき「封建道徳」「反動思想」として糾弾されるだろうが,残念なことに私はそう思わない。むしろ秦山の生き様に感動すら覚える。

それはねえ,不幸な罪にあわず,努力が報われるところに生きて居れる人は,こんな曲がった理論を持ってこないだろう。あるいは努力もなにも全く無意味な生き地獄に生きている人も,こんなことは考えないだろう。考える前に死んでしまうんだから。しかしみながみな,なんとかなるところに生きているわけではない。そこで自暴自棄にならず,世の正しき道(その時代のね)を生きようとすれば,勢い秦山の様な理屈も出て来る。これを批判してみても仕方がない。真面目な人間が,人間として正しく生きようとすれば(その時代のね),世の中を破壊するか自分を修養し切るかのどちからしかないのだから。そして世の中が破壊できそうにないなら,もう自分を修養するしかない。

自分に責任があろうがなかろうが,自分に降りかかるあらゆる問題をすべて自分に引き受け,自分の身の上から行いうる最大限の努力をする。その努力の成果に自己の利益や名声は一つも入らない。これらは自分が望んで得られるものではないからである。一人の人間として,一つの後悔も残らぬ行動をすること,否むしろ人間として満足のいく行動をすることが大事である。だから君主に理由なき罪名を被せられても(直接罪を犯していないのに,無関係の罪で処罰されても),それに甘んずるのではなく,積極的に自分の罪を自覚する必要がある。

文中の「其れ或いは事変 斉しからず,放逐の悲しみ,竄殛の惨きに遭うこと有りと雖も,我の已む容からざる者,自ずから息むこと能はざれば,則ち慝を引き身を致し,敢えて一毫怨懟の私有ること莫し。……此れ君父に徳とすること有るに非ず。蓋し必ず此の如くにして,然る後 本心に慊りて,天地の間に愧ること無きのみ」は,特に感動的な一節だといってもいい。「君父に徳とすること有るに非ず。蓋し必ず此の如くにして,然る後 本心に慊(あきた)りて,天地の間に愧ること無きのみ」は,朱子学のロジックをまねしつつも,あらゆる問題を自分に惹き付け,自分の立場からの克服を目指した真摯でひたむきな姿勢を感じ取れる。

この手紙を書いたのは秦山25歳のときらしいが,あえてこれらの言葉を選んだところに,秦山の学者としての偉大さが伝わってくるようである。その学問が息子や孫に受け継がれたのも理由なきことではない。

以上,思わず長きにわたった「『秦山集』を読む」は今日で終わり。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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