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無駄話

このまえ学会に出席した。出席したといっても,会場に出向いただけで,他人の研究を無関心に聞き流していただけだったりする。私は近頃の人間に似合わず,全然興味のない話しは聞く気になれないし,他人に対しても私の話を無理に聞いて欲しいと思わない。だからかなりの時間を専門書店の人とのおしゃべりで費やした。念のため言っておくが,私は自腹で学会に出ているので,公費で交通費なり学会参加の経験値を積んでいるプロの学者と同じように思われては困る。

それはともかく,そのとき『鬼谷子集校集注』(許富宏撰,中華書局,2008年)という本を買った。出版されたのは知っていたが,面倒くさいので放っていた。でも手許にいい本がなかったので試しに買ってみた。学会での購入は割り引きも大きいしね。

鬼谷子というのは権謀術数家の親玉(とされている)人間で,中国では知名度が高い。日本でも戦前までなら漢文の影響もあってそれなりに知られていたと思うが,現在ではその名さえ忘れられかけている(専門家を除く)。まあ鬼谷子を知っていても銭にはならないので,普通の人は知らないままでいいと思う。私も一々鬼谷子の説明をする気はない(準備もないが)。

本書は「集校集注」とあるように,鬼谷子本文に数十倍する校勘と注釈をくっつけたもので,「気楽に」鬼谷子を読もうと思う素人には便利な本である。少しく注釈が多すぎて辟易するが,そこらは素人の気軽さで,私など都合の悪い解釈はジャンジャン棄てて読んだりする。もちろんこれは著者の希望を大きく裏切るが,それはお互い様だ。

まあ鬼谷子の中身はどうでもいい。実は開閉の話しに興味はない。本書を流し読みして一番面白かったのは,序言(趙逵夫という別人が書いている)だった。

本を売るためには本を褒める必要がある。嘘でも本当でも,そうするのが売文の原則である。あえてそれを外す人もいるし,私はそういう人間が好きだが,まあそれはそれ,少数派の意見である。で,本書も例にもれず,いかに鬼谷子が価値ある存在かを吹聴してくれるが,その引き合いに孔子と孟子を出していた。

序文子が言うに,孔子や孟子は世間で偉そうに言われるが,実際政治ではたいした活躍をしていない。が,鬼谷子は違う!という,ありがちな展開で鬼谷子が褒められる。しかし孔子と孟子に対するフォローも忘れない。序文子は続けてこう言うのだ。――孔子は諸国を歴訪してうまくいかず,後進の教育に当たった云々,そこが孔子の孔子たる所以,卓然と思想史・教育史に価値ある所以だ云々。

一昔前の序文なら,おそらく孔子ではなく,孔丘と書かれていただろう。まして一々孔子や孟子のフォローなどしなかっただろうし,直に鬼谷子を唯物的だとかいって褒め称えたはずである。こう言うところは実に中国らしい。

まあ政治の変化によって学問的主張がころころ変わるのは中国の特徴なので,田舎者らしく一々批判するに及ばない。むしろあまりにも中国的で好感すら持てる。しかし最も好感を持てないのは,それを快からぬ風に思っている日本の学者だ。

なんでもちょっと前まで批孔批林とか言っていた中国が,時代がかわるとコロッと変わり,孔子や儒学を絶賛するのは恐るべき論理矛盾で,驚くべき暴挙であると思っている人がいるらしい。私が直接見聞したわけでないので信を置きがたい話しだが,なんとなく日本(の学者)にそんなことを言う人がいても不思議でないので,うわさ話が本当でも驚きはしない。そういう人は若い頃中国に妙な共感を勝手に抱いていたのだろう。それに対する裏切り,もしくは自分の価値観とのズレに,怒りを感じているのだろう。しかし私はそういう人に言いたい。まずもってすべきことは,その程度の見識しかなかった自己に対する批判だ,と。平たく言えばこうである。――人のせいにするな。

自己の理想に都合よくつきあってくれる他者などいないという,世の中誰でも知っている常識に到達すれば,中国の「裏切り」など問題とするに足らない。当たり前だからだ。まず反省すべきは自分の常識のなさ(これを非常識といふ),見識の足らなさ(これを無見識,ご都合主義といふ)でなければならない。もうひとつ,民主主義でも資本主義でも君主主義でも共産主義でもなんでもいいが,自分の信念が絶対だと思うから,他人に対する変な批判が生まれるのだ。

中国の学者の発言がコロコロ変わるのは珍しいことではない。そして,それは日本においても珍しいことではない。欧米でも同じだ。そんな当たり前の人間通有の現象に,一々構っていられるほど,普通の人々は暇な生活を送っていない。学者は学者だから普通の人間になる必要はないが,あまりにおめでたいと辟易してしまう。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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