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(感想)『宋集伝播考論』

宋集伝播考論』(リンクは書虫)を読んだ。宋集というのは,宋代の集部のことで,いわゆる文集とか総集とかいうそれの謂。鞏本棟氏の著書らしい。

本のタイトルだけを見て,私はてっきり宋代の板本の流伝径路を研究したものだと思っていたのだが............まあ確かにそんなことが書かれてはあったのだが,なんというか,予定外の本だった。

個人的な所感で恐縮だが,本書は研究書というより解説書兼資料集といった方が適切だと思う。はっきり言えば,修士課程を普通に了えれば身につくような基本的な事項を概説風に説明しただけで,特に目新しい発見はなかった。せいぜい明代の解説に反感を持ったくらいだが,これは後の述べることにする。

本書は大きく綜論篇と域外篇の2篇に分けられる。綜論篇は宋代・明代・清代に分かれ,域外篇は日本と朝鮮の宋集,朝鮮の宋人詩文,李璧の王安石詩注,そして高麗朝以下の朝鮮の宋代文献の解題集(文献解題のようなもの)に分かれる。ちなみに分量的には,綜論篇は全体の1/4程度,最後の朝鮮の文献は1/3程度を占める。随って,本書最大の価値は,朝鮮の解題集であるといっても差し支えないだろう。なお巻末には珍しいことに人名と書名の索引が付いている。これは大いに評価できる。

綜論に見える論述は,宋代にも本がそれなりに出版されていた,文集の型もあった(よく見かける文集とか全集とかいうあれの説明),明代はいろいろ文句を言われるが,現在まで宋代の書物が残ったのは明人の功績も少なからずある,清代の宋集整理は重要で,特に『永楽大典』から輯佚した『四庫全書』は特筆すべき事業だ,しかし四庫本には幾多の美点とともに,改竄などがあるので,清代以来補正がたくさん出ていて参考にすべきである云々,というものである。

まあ,まともに研究したことのある人間なら誰でも知っている内容が書かれてある。しかも具体例を列挙......というか,書名と人名を挙げて,某々もそう,あれこれもそう,それそれもそう,と延々と書いてくれるので,お陰でハイスピードで読み終えることができる。特別に細かく説明してくれる板本もあるが,それは蘇軾などの超有名人=特殊な例外なので,これだけあげて宋代一般を語られても困るというのが正直な感想だ。

域外篇は中国の人が中国の人に向けて書いた本だから仕方ないのだが,日本にも善本があるという類の話で,日本人には当たり前すぎてどうとも感想の書きようがない。

というわけで,本書は常識的なことを総合的に論じた本なので,別に批判する必要もないし,絶賛する必要も感じない。ただし明代について論じたところだけは,少しく疑問がある。

著者は明代の出版に相当問題あることを認め,特に「明人が本を出すと本が消える」という有名な言葉を引用し,一応は是認する。しかし全体的に見れば,明人の出版に対する功績は没してならないというのである。

全体的に,というのは都合のいい言葉だが,一般論からいえば,そもそも明に価値がないはずはない。そしてその意味で明に価値があるというなら,一々研究しないでも,あらゆる時代に価値はある。それは言わずもがなだろう。

宋集は唐以前に比べればそうとう多いが,明末以下に比べるとそうとう少ない。随って,現実的な問題から論ずれば,宋集は個別に論じられるべきもので,全体的に論じても意味がない。そして個別に論じた場合,著者の認めるように,明代の板本は,あらゆる点で相当に問題があるのである。とても褒められたものではない。もちろんここで問題にしている明版は明代中期以後のそれである。

そもそも著者の認めるように,宋集のかなりの部分は永楽大典本である。永楽大典は明朝初期のものだから,明人のものには変わりないが,一般に言われる明版とは意味が違う。だから明版に意味があろうとなかろうと,宋集のかなりの部分は大典輯佚本を作った清人の功績で,明人とは何の関係もない。だから明人になんの功績もない。

一般的に極めて評判の悪い明版に対して,色眼鏡を棄てて公平な判断を下そうとする著者の態度は立派だが,著者の指摘ですら,明に対して好意的過ぎると思われてならない。宋集に対する明人の功績は,蘇軾をはじめとするごく例外的な書物を除き,ほとんどない。むしろ『永楽大典』から輯佚した清人にこそ,その功績は譲られるべきである。

なお「明人が本を出すと本がなくなる」というのは,『水経注』に関係する発言であり,集部に関係しない。経部や史部はもともと神経質な作業を要求されるので,明人のようながさつな連中が手を出すと滅茶苦茶になるのは当然といえば当然である。しかし集部は,極端に言えば,一文字二文字の誤植があっても,文意の理解に困難を生じない場合が多い。だからこの手の発言を集部に流用するのはいかがかと思う。

とまあ,最後に明代を叩いたわけだが,本書全体を通読すれば,大味ではあるが,既存の知識を満遍なくとりこみ,丁寧に説明してくれている。細かいところは各々の研究書を読んで研鑽につとめてほしいと言うことだろう。だからこれから宋代の研究をしようと思う学生には,いい本ではないかと思う。ただ実際に宋板を手にした人は当然にして,四庫本とか永楽大典本とか,やっぱり明版は駄目だな~という会話をしている人には,少し物足りなく感じるように思う。

そうそう私は朝鮮関係のことを知らないので,その点の価値は分からない。よそを当たってください。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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