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増補点校本『春秋会要』

春秋会要』(リンクは書虫)を購入した。本ブログを時系列でご覧になった奇特な人は,私はぽこぽこ気楽に本を購入しているように見えるかも知れないが,購入時期はすごく離れております。ただブログを書く気になったとき,まとめて書いているだけです。

それはともかく,この『春秋会要』は清朝に発売されたそれではなく,現代人の手で大幅リニューアルを遂げた立派な新本で,書物全体の構成も旧版に比べて大幅に改善されている。責任編集者には王貴民の名があがっている。本書の特徴を挙げると以下の通り。
  • 大幅な資料の増補
  • 発掘資料の増補
  • 資料の補正等
  • 伝統的体系をある程度保持したこと
  • 理解の難しいところに注釈を加えたこと
  • 印刷が綺麗なこと
  • 紙が良質になったこと
要するに,旧版の『春秋会要』があまりにふがいないので,全面的な刷新を図ったのが本作だということになる(ついでに紙質も)。また発掘資料を釈文つきで引用したのも利点に便利である。なにせ発掘資料の写真版は値段が高く,本も大きく場所をとる。本書によって発掘資料が容易に閲読できる利便性は大きい。しかしこれらは最近の中国の出版物に通有するものなので,なにも本書だけに限ったものではない。本書の特徴は伝統的な春秋学の体系と現代的なものを混ぜたところにある。

本書は会要であり,春秋学の体系的書物ではない。随って本書の構成は一般的な会要スタイルを取っている。つまり冒頭に世系(諸侯の系譜)を置き,順次官職・刑法・軍制・礼・宮室・区域・食貨・民俗・天文・災異を設けている。もちろん食貨の中に生産経済などの現代的項目があるなど,随所に現代的な様相を呈してはいるが,全体的に古風な会要体を守ったようである。

また本書は経文と伝文を年代順に雑引し,経伝の区別を設けていない。これは伝統的にはあり得ない,現代的な方法である。しかし記事が多量に存在するもの,例えば諸侯の卒などは,魯公と周および他の諸侯に区分して経伝を引用している。春秋学では内外の別といって,魯公(および周室)と他の諸侯を区別する考えがある。

内外の別は春秋学の思想であるが,同時に資料編纂において妥当な方法でもある。春秋は魯を中心に書いた史書(経書)なので,どうしても記述の方法が魯中心になる。随って内外の別を設けず,春秋の諸侯を一律に記述してしまうと,資料の多寡に頗る偏りが生まれ,結果的に読者の理解を妨げることになる(*)。

あらゆる経文に内外の別を設ける必要があるか否かは難しい問題だが,本書は多量に存在する資料には内外の別を設け,少数の資料に対しては内外を混ぜて経伝を引用したようである。これはある程度見識ある態度である。その他,項目によっては,全く経学的な項目もあり,そうかと思えば現代的な立て方もある。ただこうした新旧の折衷は,利用者によって評価の判断が分かれるだろう。

会要のスタイルはもともと年代順に資料を排列する。随って,本書も項目ごとに年代順に資料を排列している。しかし春秋経伝を時間順に排列した場合,排列可能な資料の大半は経文と左伝になる。確かに項目の多くは経文と左氏伝の混合のような形態になるが,一方で伝文の引用が一条もなく,単純な経文の排列(随って伝統的な春秋学の排列そのもの)になっている箇所もある(左伝ばかりというのもある)。

これは非常に微妙な作りである。例えば本書を歴史学的に利用しようとする場合,経文を軸にした本書はかえって利用に便が悪いだろう。なぜなら時系列に排列し切れない多くの伝文(主として左氏伝)が削除されるか,別配置になるからである。逆に,私のように経学として春秋を読む人間にも利用が難しい。なぜなら内外の別,華夷の別の混雑もさることながら,経伝が雑引されているので,利用が面倒なのである。春秋学にとって経と伝は全く別物だからである。

なお本書は難解な文章に注釈を加えている。注釈の採用範囲は,三伝注以来,宋代から清代まで幅広く取られている。ところが,三伝注などの著名なものを除き,凡例に注釈方が書かれていなかったので不信に思っていたところ,148頁に「按,此引自上海古籍出版社一九八六年影印的世界書局版春秋三伝,以下凡引「某某曰」,均出此」とあった。某某曰という言い方に疑問はあるが,それ以上に『春秋三伝』からの引用とは驚いた。確かに便利な本ではあるが,ああいう便利本から直接引用するのは珍しい。

注釈の問題はともかく(便利なことには変わりない),本書の評価は難しい。全体的によくまとまっている反面,新旧折衷のため利用に制約が生まれ,利用者を選ぶ本になっている。まあ一番いい使い方かと思うのは,軽~い気持ちで都合のいい資料を探したり,関係する経伝を調べることだろうか。属辞比事の奥義を本書で極めようと思っても,それは無理な相談である。


(*)これ以外にも,経文と三伝では書法(文法・語法)が異なるため,通読に不便が生じるなどの短所もある。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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