スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『中国歴史研究入門』の宋代部分

いまさらで恐縮だが、『中国史研究入門』上下巻(山川出版,1983年)が出版されて以後、同増補(1991年)が出版され、さらに『中国史学の基本問題』(汲古書院)が出版され、そして本書『中国歴史研究入門』(名古屋大学出版会,2006年)が刊行された。全1冊の分量からして、十分な紙数とは言い難かったが、『中国史研究入門』以来の研究が増補され、それ今後の研究に利便性を与えたことは確かだ。

とはいえ、この種の便利本、自分の専門分野に対しては案外利用しない。自分の研究分野に対しては自分が一番知っているはずで、少なくとも一般的な「研究入門」に記述される以上の知識をもっているはずだからだ。そしてその延長上、自分の専門とする時代の資料や一般的動向なども、常時諸種の情報を集めているのだから、「研究入門」のお世話になることはあまりない。

そういうこともあって、実は本書を購入して以来、五代・宋(第5章)については斜め読みしかしていなかったのだが、この前、宋代の基本資料を列べた際、久しぶりに本書宋代の「宋代史史料」を読むことになった。手際よく重要史料の解説が記述されていたのは言うまでもないが、一つ二つ、気になる説明が目に付いた。『太平治蹟統類』と『南宋館閣録』に対してである。

予め言っておくと、両書の解説に間違があったわけではなく、説明に微妙なズレがあるような気がしただけだ。例えば、『太平治蹟統類』の説明には次のようにある(以下、全文引用にあらず)。

北宋時代の諸政・典章等について,『続資治通鑑長編』等を材料に「仁宗平王則」(巻10)「神宗任王安石」(巻13)等の88項目に分かってまとめた資料集。李心伝『建炎以来朝野雑記』に類似した内容だが,史料価値は及ばない。(149頁)


治蹟統類

本書が『長編』等を材料にして成った資料集なのかどうか、私は知らないので論評できないが、李心伝の『雑記』に類似した内容というのはどうだろうか。李心伝の『雑記』は「雑記」の名に違わず、雑多で短い記事が多い。それに対して、本書はどちらかというと紀事本末体に近く、各項目の記事も長い。従って趙希弁の『読書附志』は次のように指摘する。

『太平治蹟統類』四十巻。『中興治蹟統類』三十三巻。蓋し『通鑑紀事本末』の条例に倣い、統べて之を類し、事は其の綱を撮り、辞は其の要を挙ぐ。上は芸祖(太祖のこと)より、下は孝宗に至るまで、凡そ二百門と云う。眉山の彭百川の編修。(子部類書類)



もちろん本書が李心伝の『雑記』に似ていないわけではないから、解説が間違いというわけではないが、説明文句に微妙なズレを感じた。

もう一つ、『中興館閣録』の説明。『中国歴史研究入門』は蔵書目録の項で次のように解説する。

その他の南宋の官撰蔵書目録には,陳騤等『中興館閣録』『中興館閣続録』(張富祥点校『南宋館閣録 続録』,中華書局,1998年)がある。(151頁)


館閣録

この説明そのものは間違いではない。確かに『館閣録』修纂の項に朝廷が編纂した書物が挙がっている。だからそれはそれでいいのだが、『館閣録』を「蔵書目録」の項目で説明するのはどうだろうか。もしかすると紙数の関係上、ここに挙げざるを得なかったのかも知れず、それなら揚げ足取りもいいところで、ここでグダグダ言うのは申し訳ないことだ。

ただ『館閣録』の本来の目的は、朝廷の蔵書目録を挙げることにあるのではなく、南宋の館閣制度の顛末を説明することにある。従って本書のかなりの部分が、館閣(秘書省など、朝廷の歴史書などを編纂する部署とその制度)に関わった官僚の任免一覧になっている。だから本書を蔵書目録に挙げるのはやむを得ないにしても、本書本来の性格の説明があった方がよかったようにも思う。

以上、なんとなく全体的に揚げ足取りのような記事になってしまったが、『中国歴史研究入門』(宋代部分)そのものは決して悪い本ではない。それどころか、中国の歴史を専門に選ばなかった人には、研究動向や基本資料の解説など、役に立つ記事が多い。本書を理解するには、いわゆる概説書程度の知識は必要だろうが、概説書に飽き足りない人はぜひ本書を読まれるといい。

蛇足。

『中国史研究入門』上下巻(増補版)は入手困難らしい。また『中国史学の基本問題』は専門家以外が読んでも意味不明なので、普通の人は手を出さない方がいい。『基本問題』シリーズは複数の研究者の論文集で、モチーフ的には各時代の重要問題を最前線の学者が別個論ずるというもののはずだが......とても基本問題と言えないような論題が多く、内容も基本問題でもなんでもないのが多い。

スポンサーサイト

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
プロフィール

awatan

Author:awatan
HN:江藤清通
かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

自営サイト
最近の記事
カテゴリー
リンク集
全記事表示

全ての記事を表示する

FC2カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。