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春秋学の説明方法

春秋学の入門と題してなにかを説明する場合、二つの立場がある。第一は、春秋経文、左氏伝、公羊伝、穀梁伝の特徴を列挙したもの。これの拡大版として、春秋三伝(左氏伝・公羊伝・穀梁伝)のみならず、歴代春秋学説をも列挙する場合もある。要するに、有名な春秋学説を時代順に列挙することで、春秋学の学説の歴史を概観し、春秋学を理解しようというものだ。そして第二は、春秋学の原理や理論をといたもの。これはあまり評判がよくないのか、専門書以外にはお目にかからない。

この両者、それぞれに目的があり、意味もある。また捉えようによって、両者は接近しもする。しかし私は傾向的なものとして、第一の立場に懐疑的だ。春秋(学)だけではないが、なにかを説明する場合、歴史を書いただけでは理解したことにならないのではないか、と思うのだ。ただし予め言っておくと、当の私も、むかしは第二の立場を好んでいた。ただ研究を進めたり、歳を取るにしたがって、徐々に第一の立場に接近していっただけである。

第一の立場で書かれた書物が便利であることは否定できない。重要な学者や書物、はたまたその学説が説明されているので、著者の腕さえ確かなら、春秋学(の重要学説)の考え方が容易に理解できるのだから。そして春秋学という学問を実地に行う場合でも、結局はこれら先行する学説に依拠するのだから、先行学説を網羅的に説明した書物はありがたい。なにごとによらず、自力で全部の学説を組み立てるのは至難だし、第一、優れた先学に対して失礼な話しだ。自分が思うほど、自分の独創性はないものだ(劉敞のような天才はしらないが)。

しかしふと冷静になって見ると、この歴史というのはくせ者で、春秋学の膨大な学説を理解して、春秋学が分かったような気になったのに、その実、何一つ分かっていないことに気づかされる。曰く、だれそれはこんな学説だった、あちらはこんな特徴があった。なるほど、たしかにそうかも知れない。では、肝心の春秋学は何ですか?――と尋ねられるとハタと困り、春秋三伝があって、何休がいて、杜預がいて云々、というよく分からない説明をするはめになる。

過去の学者(学説)の宗旨を極め、それを列挙する。より高度なものとしては、その学説を関係するものどうしくっつけ分類する。これは「学案」とよばれる中国の学問分類方法で、それ自体は価値あり、また有効なものだ。この学案は、理学や心学のように、各人によって思想が異なり、しかも個人の思想が研究対象となる分野では威力を発揮する。しかし春秋学のように、研究対象が個人の研究ではなく、それらを越えた春秋という書物にある場合、有効にその力を発揮しない。個々の学説を結びつける何かを据えないと、なにも説明できたことにならないのだ。

ありのままの過去というのが存在し、むかしの学説を列挙すれば、それで全て分かる――と思うのは、近代の歴史学にありがちな一種の思想にすぎない。その思想の中にいる人には通用するが、そこからはみ出てしまった人間には、この方法では過去を説明したことにならない。はみ出た人間は、結局、近代の歴史学の生まれる前の、ごくありふれた歴史の学問にもどる。

自分の研究目的、あるいは自分の思想をさらけ出し、多くの苦難を乗り越えて、自分がつかみ取った春秋学の「真理」――偏った思想を中心に置く。その春秋学の「真理」を自分の口で説明するか、自分が頼りとした学説を列べて、自分の言葉に代えるかは、人によって異なるだろう。しかしその中心に自分のつかんだ「真理」を置くのは、どれも同じだ。

こうしてはじめて、その人は春秋を語り得たことになるのではないか。そしてこれは、近代の歴史学者でなければ、だれでも普通に行ってきた。そもそも歴史というのは、何かを理解するための手段としての意味しか与えられていなかったのではないか。好事家を除き、歴史じしんの解明が目的ではなく、人は何かを解明するために、歴史を用いていたのではないのか。

と、仰々しく騒いでみたが、当たり前と言われればその通りだ。歴史に妙なこだわりを持つから、妙な勘違いをするんだと言いわれたなら、仰る通りとしか言いようがない。おそらくこんなことにこだわるのは、私が長いあいだ公平無私の歴史学や、客観的な歴史学というものに憧れていたからだろう。だれもが賛成できる過去がある、そういうものがあると信じていたから、こんな葛藤が生まれたのだろう。

所詮その程度のものだが、他ならぬ私じしんが春秋を語りたいと思えば、おのずとこういう「問題」も問題の俎上にあがってしまう。この「問題」がどれほど深刻で、それほど今の人々の心を捉えられるかが、一流と二流以下を分けるのだろうが、残念ながら私にこの判断をする資格はない。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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