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読み比べ

ここしばらく本ブログで問題にしていた『宋名臣言行録』の訳本を比較してみた。漢籍の板本比較はよくやったが、まさか日本語訳本の比較をする日が来るとは思わなかった。しかし乗りかかった船というので、県立図書館のお手を借りて、県下の図書館から集めてもらった。最近はいろいろな県立図書館で図書を運んでもらえてありがたい。ちなみに『宋名臣言行録』に関しては、こちらの記事にまとめた。

最終更新日:2009/10/04

『宋名臣言行録』は大昔の本だから、当然いろいろなヴァリエーションが存在する。しかし線装本はなかなか閲覧できないし、また一般の人にとって無意味だろうし、専門家には常識だろうから、ここでは問題にしない。以下、図書館で「宋名臣言行録」を検索するとよくヒットする本に限って見聞記を記しておこう。

  1. 米良石操『増補宋名臣言行録定釈』(和泉屋市兵衛等,1878年)
  2. 小野鐘山『宋名臣言行録』(文成社,1910年)
  3. 公田連太郎『宋名臣言行録』(国民文庫刊行会,1932年?。『続国訳漢文大成』)
  4. 和田清・河原正博『宋名臣言行録』(上巻,中巻,岩波文庫,1944年,1948年)
  5. 諸橋轍次・原田種成『宋名臣言行録』(明徳出版社,1972年。『中国古典新書』)
  6. 和田武司『宋名臣言行録』(徳間書店,1976年。『現代人の古典シリーズ』)
  7. 梅原郁『宋名臣言行録』(講談社,1986年)
  8. 丹羽隼兵『宋名臣言行録』(PHP研究所,1988年。『中国古典百言百話』12)

1は線装本なので除外するとして、2は国会図書館のデジタルライブラリー(宋名臣言行録)で閲覧できる。3は古本屋でたまに見かけるもので、いくつかのヴァリエーションが存在する。しかしどれも同じもの。4は戦前戦後に出版された岩波文庫のものだが、下巻は刊行されなかった。5は通俗本。6と8はビジネスマン向けの本。7は碩学の手になる概説書。なお8も1995年にPHP文庫から再版されたが、著者の序文などを除き、中味は同じもの。文庫の方が手軽で便利。

以下、やや詳しく見ていきたい。ただしネットで閲覧できるものは簡略に済ませた。なお文中の「張采本」とは、明朝に出版された『宋名臣言行録』を指す。朱熹の原本と比べると簡略であり、現在はあまり利用されていない。また「前集」「後集」は各々朱熹の『五朝名臣言行録』と『三朝名臣言行録』を指す。「態度」は、対象とする読者層が明記されている場合に限り、記入しておいた。

1.米良石操『増補宋名臣言行録定釈』(和泉屋市兵衛等,1878年)
〔定本〕張采本
〔特徴〕附録として典拠や引用書目などを説明している。もはや過去の本。

2.小野鐘山『宋名臣言行録』(文成社,1910年)
〔定本〕張采本
〔範囲〕前集のみ
〔形態〕書き下し。下の『国訳漢文大成』と同系統の本で、下の本を読めるなら必要ない。

3.公田連太郎『宋名臣言行録』(国民文庫刊行会,1932年?。『続国訳漢文大成』)
〔定本〕張采本
〔範囲〕前集・後集
〔形態〕書き下し。若干の注釈あり。
〔態度〕古典として尊敬。人間に有益な書物。
〔対象〕
〔その他〕有名な叢書なので多くの図書館に蔵書がある。ただし張采本なので注意を要する。公田氏は民間の学者で、史料の閲覧に不便があったのであろう、稀に引用文の確定にミスがある。しかし非常に正確な訳本である。

4.和田清・河原正博『宋名臣言行録』(上巻,中巻,岩波文庫,1944年,1948年)
〔定本〕四部叢刊本
〔範囲〕前集(上巻:巻1~巻3(曹瑋)、中巻:巻4(畢士安)~巻6(程琳))
〔形態〕書き下し+原文+訳注。和田氏のはしがき有り。
〔態度〕「宋は支那歴代の中でも、三国と共に、人材の輩出を以つて知られてゐる時代である。名臣言行録はその一代の名臣の言行を、大儒朱熹が蒐集したものである。」基本的に「世を益することも多かった」と見なしているようである。
〔対象〕
〔その他〕当時としては四部叢刊本が珍しかったため、巻末の訳注前に原文を収録している。また巻末の訳注は、その分量こそ多いが、大半が地名・人名(正史の巻数)であり、内容に踏み込んだものはほとんどない。なお、本書の訳文(書き下し文)は河原正博氏の手になり、和田氏は序文の他、斡旋と校閲の労を折ったにすぎない。

5.諸橋轍次・原田種成『宋名臣言行録』(明徳出版社,1972年。『中国古典新書』)
〔定本〕四部叢刊本
〔範囲〕前集後集から抜粋
〔形態〕書き下し+原文+語釈。解説あり。
〔態度〕「明徳出版社が中国古典新書百種の刊行を計画した時……私は即座に名臣言行録をと答えた。もちろんこれは宋に名臣が多く、その言行には後人を益する教訓が多いからという考えが第一」、そして「名臣言行録は絶代の碩儒朱子の撰」だという。
〔対象〕
〔その他〕ページ数が少ないので、収録文章も少なく、現代語訳もないので注意を要する。ただし語釈は比較的細かい。なんでも諸橋氏が訳出箇所を指定し、原田氏が訓読したという。したがって訓読部分はすべて原田氏の手になる。また本書冒頭の「解説」は岩波文庫の和田氏のはしがきをつづめたようなできなので、可能なら岩波文庫のはしがきを御覧になることをお勧めする。というか、これって......いや、止めておこう。

6.和田武司『宋名臣言行録』(徳間書店,1976年。『現代人の古典シリーズ』)
〔定本〕張采本
〔範囲〕前集後集から16人の言行録を抜粋したもの。
〔形態〕通釈?+原文+書き下し。解説あり。
〔態度〕「この書にもられているのは、すぐれて政治の知恵であり、そしてまた人間関係の要諦である。管理社会に生きる現代人にとっても、すこぶる今日的意義をもつテキストと推量するしだいである。」
〔対象〕ビジネスマン
〔その他〕いちおう訳文+原文+書き下しのつもりらしいが、訳文と言うには原文から離れすぎている。ただ原文と無関係の訳文でもない。通釈に近い。注釈はほとんどないが、そもそも通釈なのだから、訳文の中に織り交ぜてあるので問題ない。前集と後集から16人を選抜して紹介している。しかしその16人についても全文を収めたわけでなく、やや短めものものを幾条か収めたに過ぎない。解説は通俗的。そもそもこの時代に張采本を利用しているところからして、本書の学問的態度は推量すべきものがある。
〔備考〕収録16人。趙普・曹彬・呂蒙正・李・王旦・寇準・杜衍・范仲淹・蘇洵・韓・富弼・歐陽修・文彦博・王安石・司馬光・蘇軾。

7.梅原郁『宋名臣言行録』(講談社,1986年)
〔定本〕四部叢刊本
〔範囲〕前集後集から抜粋。
〔形態〕総説・人物紹介・訳文・書き下し・原文・各条解説
〔態度〕「これまでの教訓的な読み方をある程度は温存しながら、別に新しい視角をも加えて、この書物を中国の古典の一つとして読み直してみようと考えた。一口でいえば、それは、宋代という、いまから千年近く前の人物たちの言動を借りて、現代にも通じる中国人、とくに知識人たちの複雑な正確を理解しようとする試みにほかならない。」
〔対象〕
〔その他〕碩学の手になるものだけに定評がある。『宋名臣言行録』を読むためだけでなく、広く宋代一般を知るのに有益な書物。「皇帝で章を区切り、その天子の時代について、はじめに大まかな概説をつけた。その時代的背景と、各人の履歴、そして一条一条の後にある解説によって、「名臣を中心とした北宋時代史」という読み方も可能なように工夫したつもりである」(21-22)と適切な説明がある。是非とも一読したい書物。

8.丹羽隼兵『宋名臣言行録』(PHP研究所,1988年。『中国古典百言百話』12)
〔定本〕不詳
〔範囲〕前集後集から抜粋
〔形態〕書き下し+原文+解釈。冒頭に解題あり。
〔態度〕「かれらが、管理社会のなかで、複雑な人間関係にいかに対処し、ワイロなどさまざまな社会的誘惑にさらされながらいかにして自己の能力を発揮していくか、その身の処し方の数々は、現代というもうひとつの管理社会に生きる我々に、多くの示唆をあたえてくれる。」
〔対象〕ビジネスマン
〔その他〕百言百話シリーズの1冊なので、本書も「百言」と「百話」に分かれているが、前後を通じて形態に変化はなく、『宋名臣言行録』から二百言を収録したのに等しい。著者が重要と思った部分を自由に抜粋し、その書き下し文と原文を置き、それを説明したもの。6よりも通俗的。また解説が6と似ている。底本の記述もないくらいだから、本書の質は推して測るべきものがある。しかし6にはない無名人の言行録も収めているので、手軽に読む分にはおもしろい。


各々一長一短あるが、教養書として参考になるのは梅原氏のもの、読んでおもしろいのは丹羽氏のもの、とりあえず全文をというなら公田氏(張采本)のものではないかと思われる。四部叢刊本の書き下しを求めるなら岩波文庫だが、下巻未刊行につき最後の方がない。しかし今の世の中で書き下しを必要とするのは学者だけだから、河原氏の努力はともかく、一般人にとってもはや岩波文庫に価値はない。

以上。なにかのお役に立てば幸いです。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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