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明朝の国際戦略

たまたま借りた本に「十四世紀から十七世紀にかけての中国の戦略」という論文が入っていた。著者はアーサー・ウォルドロン氏。有名人かもしれないが、私は知らない。ちなみに借りた本というのは、『戦略の形成』(上巻、中央公論新社、2007年)。古今東西の戦略形成を扱った複数著者の論文集で、主として西側のことが書かれてある。

当たり前のことだが、この手の論文は圧倒的に西側のものの方が面白い。それはこの本も例外でなく、当初は明朝の論文は飛ばそうと思っていた。が、「古代や近代における中国の戦略には従来から高い関心が払われてきた。しかし、孫子と毛沢東の間の非常に長い時期を研究の対象としている学者はほとんどいない」(189頁)という人間的に極めて妥当な発言でありながら、日本にいると顛倒したような錯覚に囚われる書き出しに牽かれ、おもわず読んでしまった。

この論文は「戦略」を扱ったものだから、戦争のことが中心で、経済政策とかいう無邪気な話しは出てこない。論旨は、中国の戦略にはステップ地方を主眼とするものと、南方を中心とするもの(おそらく儒学のことを指しているのだろう)が複雑に絡み合っている。そして明朝はそれらを体現しているから、研究に値する。で、研究した結果、明朝は初期こそ元朝を追随してステップ地方に積極策に打って出たが、土木の変あたりから消極策に変化していった。で、最後は自滅した。という、常識的なことが書かれていた。そうそう、あらゆる政策は個人の偶然の能力に委ねられていたという、中国史の常識も強調されていたが、これは常識過ぎて問題とするに足らない。

全体的に、誤訳なのか原文のミスなのか不明なところがわずかに存在したほか、論旨不分明なところも若干あった。しかし大部分は常識的なことしか書かれていなかったので、普通に中国の歴史を調べたことのある人なら、あえてこの論文を読む必要はない。わざわざ皮肉な言い方をすれば、漢文畑の人が書きたがる表現ではなく、「安全保障」とか「プラグマティック」とか「政策決定プロセス」とか、現代的な表現が多用されており、一見すると斬新な感じを受ける。そういうのが好きな人は読まれるといいでしょう。いいかどうかは別として。

本論を読んで少し面白く思えたのは、明末に出てきた朱子学バカの東林党を評して、外交問題をよりいっそう複雑にしたと指摘していたところだ。なぜか日本では評価される向きのある朱子学バカ集団だが、常識的に言って、人間が高潔だったという以外のものではない。書物しか読んでいない読書人が実際政治にタッチした場合の危険性は言うに及ばない。さすがに戦略を問題にした論文だけあって、この危険集団を正しく評していたのは気持ちよかった。

もう一つ、これも普通の人間には常識に属すことだが、儒学大好きっ子にはなかなか出てこないステキな発言があった。中国古典によく見られる道徳万歳主義に対して、「社会の秩序を維持するためには、中国の古典が描くような道徳を基礎とした国内秩序を確立するだけでは十分でないことは明らかであった。なぜなら、中国文化にまったく感化されない外部勢力が存在すれば、中国の社会そのものが滅ぼされる恐れがあるからである」(199頁)と言う。すこぶる常識的な見解だが、儒学大好きっ子の発言を見ることの多い私には、少し小気味よかった。

その他、文句をつけようと思えば付けられるが、短い論文でもあり、著者の真の目的もはっきりしないので、止めておく。ただし論述の都合で、唐・宋・清の政策を無視して、漢と明と元だけを問題にするのはどうかね?ちょっと読者をなめてないか............とまでは言わないが、ちょっとねえ、という感じは受けた。

以上、とりあえずの感想。

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