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翻訳

ちょっと必要があって、去年せこせこ翻訳した『春秋五論』を一部読み直した。正直いって、自分の文章や訳文を読むのは苦痛なのだが、はたと「もしや誤訳したのではないか」と気になったのだ。結果的には、立派な翻訳ではなかったが、誤訳とまではいかないものだったので、まぁ、それはよしとした。しかし、やはりと言うべきか、下手だな......あれでは普通の人は分からない。全然駄目だ。

それはそうと、翻訳とは何だろうか。直訳か意訳か、そもそも直訳とは何ぞや、訳とは何か、等々、いろいろ議論はあるのだが、私は長らく、機械的な直訳は翻訳ではなく、著者が日本人ならどのように書くか、ということを理想にしていた。ググってもらえば、この種の考えを抱く人間が多々いることを容易に発見できるし、そこにはなかなか立派な主義主張があるらしい。ただ私の場合は、尊敬する(とまでは言わないが)高畠素之がそういう翻訳をしていたというので、無意識にそういう流儀だったに過ぎない。

しかし最近になって、どうもその手の翻訳に疑問が出てきた。もちろん日本語として意味の通じない機械的な直訳は、学者相手ならともかく、普通には無意味であり、また志すべきものではないと思う。しかし「著者が日本人ならどう書くか」を追求して行き着くさきはどこにあるのだろうか。どこまで追求すれば、本当にこなれた日本語になるのだろうか。分からなくなってしまったのだ。

例えば、私の場合、中国古文を読むときは、おそらく擬似的に中国古文として読んでいると思われる(自分ではよく分からないが)。いちいち日本語に置き換えるようなことはしていない。それは難解なところでも同様だ。もし難解だからといって、日本語に置き換えて理解しようとしても、決して理解できないだろう。仮に原文が日本語であっても、それが難しいからといって、相手の主張が理解できていない段階で自分の言葉に置き換えても、決して理解できないだろう。それと同じだ。そもそも置き換えには幾通りもの可能性があり、その可能性の中のどれを選ぶかは、原文が読めていないと出来ないからだ。

ただ中国古文を中国古文として理解した場合(正確には擬似的に理解した場合)、それほど難解な文章でなくとも、いざ日本語にするとなるとなかなか厄介なときが多々ある。もちろん私の理解力が足らないだけのことも多いが、それだけとも思われない場合も少なからずある。

その理由は幾つか考えられる。一つは単語(中国古文の場合は漢字)が正確に現在の日本語に対応してくれないこと。二つは原文の句読が日本人の呼吸に馴染まず、しかも句読を変えると原文の意味が変わりかねないこと。三つは表現方法(修飾語や典拠を含む)が既に現在の日本人に理解できないこと。四つは価値観が現在の日本人に理解不能なこと。五つは文章の構造がそもそも日本語の構造と異なること。いま思いついたものを書いただけなので、探せば他にもまだまだあると思う。

訳本を読んでいて常々思うのは、個々の単語や一文の難解さもさることながら(これらは腕のいい翻訳家のものなら気にならない)、文章全体の流れや説明の仕方、構造、論理、感性等々が理解しにくいことだ。しかもこれらは訳者が手を加えることの許されない領域のものだ。もし文章の構造や論理や感性が日本人に馴染まず、「著者が日本人ならこのような構造で書かないし、このような論理は用いないし、このような修飾語は使わないし、そもそもこのような感性はないのだから、このような結論になるはずがない」などと言って、原文をめちゃめちゃに改編すればどうなるか。それはもう翻訳でも何でもないだろう。

もちろんそこまで極端なことはないにしても、「著者が日本人ならこう書くはずだ」で済まないところで、内容理解が妨げられているとすれば、それは訳者がどれほど頑張ってもあまり報われないはなしではないか。と、翻訳家でもなんでもなく、しかも下手くそな私がいうのも変な話だが、最近そんなことを考えていた。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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