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資料の多寡

聖徳太子が偽者だという説がずいぶん前に流行した。(軽度の)歴史好きたる私ではあるが、その実、この種の「発見」に興味が持てないでいる。理由は簡単で、仮説が正しくとも、それを保証するだけの史料的根拠を欠くことが、研究する前から分かっているからだ。真実探求のため、いろいろやるべきだという人もいるが、もちろん私はそう思わない。

我々にとって是非とも必要なことなら別だが、歴史など分かろうが分かるまいが、政治的な問題を除き、なんの価値もない。だから史料的裏付けの取れないものは、「~にこう書いてある。正しいかもしれないし、間違いかも知れない。資料には矛盾が見られるが、見られるからといって間違いとも正しいとも言えない」と言っておけばいいのだ。

そういう意味で、上の偽造説も所詮知る必要のない存在だが、つい先日、成り行き上、話しがこれに及んだついで、ネットの反響を調べてみた。どんな記事でもよいとはいえ、長い方がよかろうと、結局wikiを読むことにした。

案の定、この程度の資料でよくこんな大胆なことが言えるなというものだった。史料的根拠がどうこういう程度でいいなら、奈良時代の(資料に出てくる)大半の人間は存在しないことになるだろう。などと思いつつ、ふと行文中、学者と民間人が並んで、同じように「学説」と見なされているのに気付いた。

偉大な学者とどこの馬の骨とも知れぬ民間人の意見が並記される。おそらく一部の学者が見れば気分を悪くするだろう。なんでも小説家の説が信用されて、学者の意見が軽んじられる風潮に危機感を覚えるアカデミックな人がいるらしいほどだから。しかし幸か不幸か、全ての人間の発言が同列に置かれ、同様に批評されるのは、あまりに当然の道理だ。

学者と民間人とを決定的に分けるものは設備の多寡にある。もちろん頭のよさもあるだろうが、正直なところ、日本で最も優秀な人材が歴史学に集まるとはとても考えられない。だから日本で最も優秀な人材以下の人材の争いなのだから、頭の良さを加えると、ほとんどすべての歴史学者が落第してしまうのだ。

それはともかく、設備というのは、歴史が降れば降るほど、民間人には苦しい。私の好きな宋代あたりだと、おそらく300万(円ね)ほどあればほとんどの資料を揃えられるだろう。しかし歴史を研究する段になれば、宋代の資料だけ見れおればいいというわけにはいかない。だから総合すると厖大な資料を必要とする。歴史は思想ではなく、資料の塊を解析した知識体系だから、資料のないところ、おのずと研究は封鎖される。

だから大規模な設備を必要とすればするほど、民間人に研究は難しく、それだけに学者が有利になる。しかし資料僅少の太古の昔ときては話しが違う。利用できる資料はほとんど限られ、しかも民間人も学者もともに見ることができる。江戸の宣長ならいざしらず、明治から現在(の少し前まで)の偉大な学者によって、読み方も一般人に開示されている。あと残るのは、その資料をどう解釈するかだけだ。

資料の多寡が等しいとき、そこから発せられる発言に差別されるいわれはない。学者の意見が民間人と並記される所以はそこにあるはずだ。もちろんこういうと、民間人は大衆迎合的な文章を書くが、学者は真実を追究していると、詭弁を持ち出す人間も現れるだろう。しかしそれは言うまでもなく間違いだ。

もしかすると学者は真実を追究していると本気で信じている人間がいるかもしれない。なかにはそう思い込んでいる学者本人もいることだろう。しかし学者は、いわゆる真実を追究しているのではない。彼らが追求しているのは、学者の世界で通用する「大衆」迎合的な発言にすぎない。ただ民間人と学者の間では、通用するところの「大衆」が異なるから、おのずと両者の間で発言の形式や好みが分かれ、結果として第三者が見ると違うように見えるだけなのだ。もっと平たく言えば、顧客層が違うだけなのだ。

ということで、wikiの太子偽造説を読んでいて、民間学者の発言に思わず感心すると同時に、もし宋代の歴史も、民間人が自由に資料を扱え、それを議論する時間的余裕が与えられるなら、従来の学者の説などはもろくも崩れ去るだろうと、そう思わないではおれなかった。

もちろん、太子真偽の真偽になんの興味も正当性も感じなかったこと、冒頭に書いた如くではある。

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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