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老婆の願い

北宋のはじめ、かくも権勢を誇った盧多遜が失脚した。彼を待っていたのは、都から遠く離れた最果ての地、海南島だった。今でこそ観光名所に数えられる同地だが、往時はまさに地獄の島だった。盧多遜のごとき河北の人間には、その灼熱の土地に堪えられず、命を落とすものも少なくなかったのだ。

しかし謀略の限りを尽くした盧多遜だけに、彼に涙を呑まされたものは数知れず、その死刑場への左遷を喜ぶものは決して少なくはなかったであろう。それを知ってか知らずか、盧多遜は海南島へ向け、嶺南の山々に足を踏み入れた。

その山道に一軒の食べ物屋があった。店で働く年老いた女は、意外なことに、華やかなりし都のことをよく知っていた。盧多遜も先日の栄華に涙し、ついつい老婆の話しに耳を傾けた。

しばらくして老婆はこんな話しを始めた。

「いぇね、私もむかしは都に住んでおりましたの。自慢ではありませんが、それなりの名家でした。息子もお上に仕える身で、地方官をやっておりました。ところが、宰相の盧多遜が来て、違法なことを無理強いしたものです。息子がそれを断ると、あろうことか、盧は罪をでっち上げて、この最果ての地に流してしまいました。

私たちがこの地にたどり着いてから一年、息子は死ぬ、嫁は死ぬ、みんな死んでしまって、残ったのはこの年老いた婆だけ。その私も今ではただ命を長らえるだけの身に落ちぶれました」

ふいに老婆の目が優しくなった。

「ですけどね、私には一つ望みがあるのです。あの宰相の盧は残忍非道な男で、権力を笠に着て横暴なことをしている。でもね、きっとお天道様は見ていてくださる。いまに海南島にでも流されるに違いないのです。私は死ぬ前に、なんとしてもこの目で盧の流されるのを見て、嗤ってやりたいのです、嗤ってやりたいんですよ!」

老婆は笑顔を浮かべて泣いていた。ぽろぽろと流れて落ちる大粒の涙が地面を濡らしていた。

盧多遜は居ても立ってもいられず、食事を断り、足早に老婆のいる店を後にした。

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

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かつては春秋学・宋代史・南学(秦山関係)関係の記事を中心に書いていました。最近は開店休業状態で、数ヶ月おきに思いついたことを書いてます。

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