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春秋左伝正義1

春秋左伝正義六十巻

内府蔵本

(周)左丘明の伝、(晉)杜預の注、(唐)孔穎達の疏。

劉向、劉歆、桓譚、班固以来、『春秋伝』は左丘明の手に成り、左丘明は孔子から経を受けたとされ、魏晉に至るまでこれに異論を唱えるものはなかった。ところが唐の趙匡に至り、はじめて「左氏は丘明ではない」との異論が唱えられた(*1)。恐らく趙匡は『伝』と経とに齟齬があるというので、それを責めるべく、まずもって「『伝』の作者は孔子から経を受けていない」と批判したのだろう。これは『毛詩』を譏るべく、まず「『毛詩』は子夏より出たものでない」と批判した王柏と(*2)、その智を一にするものである。

さて宋元代には多くの学者が異論を提起した。王安石は『春秋解』一巻を著し、「左氏は丘明にあらざることの十一の証明」を述べたという。しかし本書については陳振孫の『書録解題』に「王安石の名に仮託したもの」(*3)と指摘されるばかりか、そもそも書物が現存せず、その十一の証明が何に拠るものであったのか、もはや不明とせざるを得ない。これ以外でやや根拠のありそうな異論は、朱子の「『虞は臘せず』は秦人の言葉である」という指摘(*4)と葉夢得の「『左伝』は智伯の滅亡まで記載している。ならば左氏は六国(戦国時代)の人であろう」という主張(*5)のみである。

しかし『史記』の秦本義によると、恵文君十二年に「始めて臘す」(*6)とあるが、これに対する張守節の『正義』には「秦恵文王のときになって、ようやく中国に倣って臘祭を行うようになったのだ」と指摘がある。そうだとすれば〔秦本義の「初臘」の意味は、〕中国には太古より臘祭があったが、秦は恵文王のとき始めてその祭を行うようになったの意味になり、秦が臘祭を創始したという意味ではないことになる。これについては閻若璩も『古文尚書疏證』において次のような駁論を展開している。すなわち「『史記』の記述には、秦の文公が「初めて史書に記録を残した」、秦の宣公のときに「初めて閏月を記した」とある。しかし〔この「初めて」は〕中国に無かったという意味では断じてない。秦が創始したという意味ではないのだ」とある(*7)。そうだとすれば臘祭は秦の用いたものだから〔左氏は秦人の手になる〕という主張も、根拠がなくなってしまう。

『左伝』に記された予言は百発百中である。なるほどこれらは後からつけ加えたものだろう。ただ哀公九年(*8)にある「趙氏は代々乱を免れまい」の予言のみ、それ以後に証拠を見ないことを除いて。さて、春秋経は獲麟で終わっているのに、弟子は孔子の卒まで記事を続けた。ならば『伝』が智伯の滅亡まで記事を続けたことも、後世の人間の仕業と考えるべきだろう。例えば『史記』の司馬相如伝に揚雄の言葉が載っていようとも(*9)、この一事でもって「司馬遷は後漢の人間だ」と言えぬようなものである。智伯に言及があったところで疑うに足らないことである。ここに『左伝』を左丘明の作と定め、人々の惑いを除き去るものである。


(*1) 類似の発言は陸淳『春秋集伝纂例』巻一(趙氏損益義)に見える。
(*2) 類似の発言は『詩疑』巻二(毛詩辨)、および王柏『魯斎集』中の同論文に見える。
(*3)「専ら左氏は六国時代の人であることを弁じたもので、その明証十一事をあげたもの。著名に『王安石の撰』とあるが、これは嘘である」(『書録解題』巻三、春秋解)とある。
(*4) 『朱子語類』巻八十三、春秋綱領に指摘がある。
(*5)葉夢得『春秋考』巻三に類似の指摘がある。なお「六国」は戦国の七雄から秦一国を引いた残りで、したがって六国時代は「戦国時代」に同じ。
(*6)『史記』秦本義は「初臘」に作る。
(*7)『尚書古文疏證』巻四(言泰誓有族誅之刑為誤本荀子)中の一節に見える。
(*8)定公九年の誤。
(*9)司馬相如伝の太史公曰以下に見える。


※長いので二つか三つに分ける。

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